雪明りの長春の旅
王 娟
初めての長春。初めての仕事らしい仕事。
まさにわくわくプラスドキドキの心境だった。
3月4日 長春との出会い
長春の龍嘉空港に着いたのは午後四時過ぎ、薄暗くなっていく空からひらひらと雪が舞い始めた頃だった。平均気温マイナス18度ということは事前に知らせられていたが、マイナス十何度というのは私にとってまったくの想像つかない体験なので、足首までのロングダウンジャケットを早々に用意したが、空港を出たら、意外と寒さはそれほどでもなかった。
■長春龍嘉空港 笑顔で出迎えに来てくださったのは東北師範大学国際交流室の劉丹という方で、四日間私たちの世話をしてくださった。
市内は龍嘉空港から車で40分ぐらい走った所にある。そこに向かう道の両側に限りのない平原が広がって行く。あれはとうもろこしの農園だと聞いたとたんに、収穫の季節だったら、どんなにきれいな風景であろうと、頭に勝手に絵を描き始めた。しかし、冬のとうもろこし農園にはやはりすこし寂しさが漂っている。時々散在している東北民居は目に入ってくるが、薄雪に覆われている大地の色は空とほとんど変わらないせいか、すこし退屈に思った。これだけじゃ…やはり期待はずれなのかなあ…と気が沈んだら、車窓の外の風景がどんどん移り変わって、ついに高層ビルだらけになってしまった。
■長春市内に入った時の町並み
こうして、私たちは長春での初日を迎えた。人生にもう一つ新しい出会いが始まった。
3月5日 試練
今回の訪問の目的でもあるので、この日は極めて重要な一日となった。
朝早く目が覚めたら、外は真っ白で、町の様子はまた昨日と一段と違った。雪に誘われているようで、遊び心満点だったが、与えられた仕事を思うと、思わず緊張してしまった。仕事の経験はゼロだし、こんな正式な面会では大人物ばかり、自分が本当にうまく対応できるのかと、いまさらながら、弱音ばかり湧いてきた。しかし、既に引き受けた仕事だし、もう弱音を吐いても、どうにもならない。頑張るしかない。
このように、気持ちの反覆のうちに本番が来た。会議室に両校の担当者がずらりと並んでいる。先方の副学長が歓迎の言葉を述べはじめた。よし!いこう!と思ったら、私より一歩早く先方の通訳である劉さんが動き出した。すらすらと順調に進む仕事ぶりを見て、私は羨ましかった。仕事はこんな感じでこなせなきゃ、もっと頑張らなきゃと反省しながら、ずるいと思うがちょっと安心感も感じた。プロがいるから、今日は大丈夫だと神経がすっかり緩くなったその時のことだった!―役目が私のところに回されたのは。サボってしまった気が取り戻せなくて、一瞬頭が真っ白になった。向こうは何を言ったのかぜんぜん頭に入らなかったが、通訳を待っているような視線が一斉に寄せてきた。
その時、私は初めて社会人としての仕事に対する責任感を感じ取った。学生としての立場だったら、できなくても許してもらえるが、仕事の場合決して甘くできない。この面では自分は本当にまだまだ未熟だ。
一瞬の失敗があったけど、そのかげで、だんだん冷静になってきた。後半はまあまあ順調に行った。本当はたいしたことでもないかもしれないが、自分にとってひとつの試練でもあったと思う。自分に対する再認識、仕事に対する再認識、どちらから言っても、ありがたい体験に違いない。この貴重な機会を下さった方々に心から感謝している。
この体験をきっかけに、私は新しい自分と出会うことになった。
3月6日 雪の冒険
大事な仕事が済んだので、雪の世界に対する情熱はとうとう収まらなかった。郊外の単調さと比べて、市内のほうは彩り豊かだった。東北師範大学のキャンパスにも、周りの小中高大学のキャンパスにも、この雪の世界を引き立てているようで、建物は暖かい色のものばかり。白い雪、ピンクの建物、なんだか童話の世界に入った気分になった。
■東北師範大学本部キャンパスの一角
■東北師範大学浄月キャンパス図書館前
残念なことに、雪だるまはひとつも見つからなかった。雪に見慣れたせいかと思ったが、南の雪と質が違うと松田先生から説明を受けた。実際触ったら、さらさらして、ほんとうに固まらなかった。
東北師範大学は思ったよりずいぶん大きい。劉さんがあちこちに案内してくださったが、それでも構内の一部しか回れなかった。
■浄月キャンパスにある学生寮の縮図 寮の名前は「春、夏、秋、冬、日、月、星、光」と「華」の組み合わせでつけられている
午後、浄月キャンパスの近くにある浄月潭森林公園に行くことになった。そこにいろいろな植物、動物があるし、スキー場もあると聞いたので、楽しみにしていた。
公園といっても、かなり大きくて、山や湖もある。まさにしんとしている銀の世界。日差しが木の枝の影を優しく雪道に映っている。先がはっきり見えてこない山道は一層神秘感を帯びている。
登り道、坂道、また登り道…目を楽しんでいるうちに、私たちの車はもういくつかの坂を越えて、公園の入り口から30分以上走った。
前方に車が止まっているのを発見したのはその時だった。ちょうどV字型の山道の登り方で、もう登れない様子だった。車をストップさせて、降りて様子を確認して登ってみようと思ったら、もう滑りすぎて、前へ進めない。いまさらながら、車のタイヤは普通のタイヤで、チェーンも積んでいないことに気づいた。前方にも後ろの方にも登れない状態になってしまった。まさかの出来事だった!
■みんなで車押し
急に転換した事態には唖然としたが、冒険の刺激も高まる一方だった。一生懸命悩んでくださった案内者の劉さんに申し訳ないと思いながら、私は最初この奇遇とも言える体験に興奮してしょうがなかった。でも、よくならない状態を見ているうちに、私も初めて雪の恐ろしさを感じた。結局、レスキューを頼むことにした。一時間後、私たちはやっとこの雪から解放された。無事でよかった!!
3月7日 さようなら、長春
たくさんの出来事に出会い、たくさんの体験をして、たくさんのことが勉強になった四日間。長かったかのようで、短かったかのようで。飛行機がこの大地を後にした時、胸が複雑な気持ちでいっぱいになった。
■花がいっぱい咲いている長白山天池の絵の前で
またいつか、再会しよう。
心の囁きが届いたかのように、飛行機の窓から眺めたら、下の大地は優しく輝いているように見えた。